#001

キラキラ光る逆光の海
永遠の刹那

電車の通過でとどろく突風
永遠の刹那


紺碧の星空におぼろ月夜か

アスファルトに汚れた雨か


#002

つらいか、
さびしいか、
いとおしいか、
あわれか、
こわいか、
にげたいか、
みじめか、
うらやましいか、
なきたいか、
にくいか、
いたいか、

信じるものをなくしたか。


#003

鏡に向かって絵を描いてたら、
こいつがでてきた。


#004

ソシテマタ、フリダシニ戻ル。
タブン、ソレハ、白ニハジマリ、白ニ終ワルヨウナモノ。


#005

酔っぱらって、
かろうじて意識が、
現実に、
ほんの一本だけ、
ほんのかすかに残っている、
その一本線上で見るところの、
現実という情景。


#006

アノ花ハ今モ、咲イテイルノ?

アノ花ハ今モ、風ニユレテイルノ?

アノ花ハ今モ、ヤサシクユレテイルノ?


#007

すべてのものは、自分の目を通してしか見れない。
すべての音も、自分の耳を通してしか聴くことしかできない。
それは、とても、残念に思う。

そして、
すごく…、


不安だ。


#008

どんより曇った朝の通勤電車。
進行方向に見える新宿の高層ビルを
僕は2,3本たばにして抱き締めたいと思った。


#009 メール

っぽと同じくらい、暗くて深い夜の空に向かって、
ゆらゆらと、弱々しく、
またひとつ、言葉が旅立つ。

「こんばんわ、まだ誰か起きていますか?」


#010

既に見たと思うな。
今日も、明日も、明後日もそれを見ろ。


#011

今さらこんな話しもなんですが…。

Mさん、あなたのいった言葉は間違っている。
「アートが全てだ」じゃなくて、
「すべてはアート」なんですよ。それが僕達の見解。


#012

とある駅で電車が停まった時、
ドアの所に立っていた僕と、
すぐ隣に停まっていた反対向きの電車の、
やっぱりドアの所に立っていた娘と、
図らずしも目と目が合った。

実にしっかりと目が会った。

ドキッとした。
なぜなら、大概の場合、僕の人生とその娘の人生の、
一生に一度の接点が、
その今終わったという事実。

『あなたは誰ですか…』
『あなたの人生はどんな人生ですか?』
『今、その電車の中で、あなたは、幸せですか?それともつらいのですか?』
『今日という日は、あなたにとってどんな一日なのですか?』
『あなたには、これからどんな今日が待っているのですか?』

僕には、これまでの人生があり、今があって、これからの人生があり、
あなたにも、これまでの人生があり、今があって、これからの人生がある、
そういう状況の、まさにそれぞれの今なんだと思った時、
もうこれで二度と見ないかも知れないあなたの目を、
心に焼きつけておきたいと思った。


#013 高野へ

“描く”とは、
“生きている”ということ。


#014

“りんご”そのものに、
絵になるものと、絵にならないものの区別はない。

“りんご”は半分でも“りんご”。


#015

雨の中、今すれ違った、あの、
透き通る水色の傘が欲しいと思った。

あの水色に映される光りに頭を浸せば、
僕の頭の中の何かが、
変わると、確かに思った。



#016

その時、
もう、その先に、言葉はないと思った。
その時、すべては完結したと思った。
すべての事が、「然り」と思えた。

今まで生きてきた目標が、その時終わった気がした。
一生掛かけて答えを見つけようと思っていたのに答えを知ったと思った

それで僕は
絵を描く必要がなくなってしまった

絵のテーマを失ってしまった。

絵を描くのをやめた。

あとは、来る日も、来る日も、時間だけが押し寄せてくるんだろうと覚悟した。
思えば、何かを求めて生きていく方が、はるかに簡単だと気付いた時には遅かった。
まだまだ向こう側にいた方が楽だったかもしれない、うっかり越えてしまった。


もう一度、最初から同じ事をするか、
この気持ちをもったまま、どれだけ“誠実”に生きていけるかに賭けるか、
どちらかしかないと思った。


#017

見る角度によって
見え方が変わるもの。

逆光で見たもの、
順光で見たもの。

青っぽく見える光、
赤っぽく見える光。

同じものでも印象が違う。
案外、毎日もそうだ。

時間が経つと変わるもの。

昼の気持ちと、
夜の気持ち。

過去が今だった自分と、
その時の自分を過去として振り返る今の自分。

過去の自分が考えた未来の自分と、
未来が到達した姿としての今の自分。

案外、この毎日もそんな感じだ。



#018

僕たちの視界をふさぐ、
主張するその物たち。

でも、惑わされるな!

いいか、そいつらの、
ほんのちょっと上だ

ほんのかすかにその上だ。

あの、木々の一番高いこずえの、その先のちょっと先の先。
あの、マンションの屋上の避雷針の、その先のちょっと先の先


そこに、僕たちの、本当の目の前に繰り広げられている世界があるんだ。

僕らの視界をふさぐそいつらに、惑わされるな!



#019

なんていうことを。

どうしてそんなひどいことを。

そんな、ひどいことをどうしてできるのか。

それは、人間が人間にすることなのか。

そうだ、そもそもなんでそんなことを、あなたは人にできるというのか。
同じ人間に、人間ができるはずのないことだ。
それをあなたはやっている。
あなたはおぞましすぎる人間だ。

被害者もあなたと同じ人間だ

被害者もあなたとなんら変わらぬ人間だ。
自分がその目にあってみろ。
あなたには、それが堪えるうることだとでもいうのか。

どれだけの深い傷を相手に与えてしまうのか。
その人
の一生が台なしだ。
あなたのせいで、やさしく、甘い未来が地獄の人生になるのだ。
その人の人生を踏みにじってしまったのだ。
人の命を、一人の人間の人生をなんだと思っているのか。

あなたには事の重大さが解っているのか。
取り返しのつかないことをしているという自覚があるのか。
あなたに良心の呵責は無いのか。
なんて、なんてあなたははひどい事を。

そして、そしてだ。

それとまったく同じ罪を、僕も背負っているのだ。




#020

あの時僕は…、

あの時僕には、
どうしても掴みたいものがあった…。

どうしても掴みたいものが、
僕の目の前から消えていった。
手を伸ばしていたけれど、
掴めないまま、僕の目の前から遠のいて行くのを、
涙で滲んだ目で見ていた。

でも、それからしばらくして、
どのくらいしてからだろう…。

何も掴んで無かった空っぽの手だから、
つかめたものがあった。



#021

遠い明日に向かって、
ぼくはメッセージを託す。

どのくらい時間がかかるだろう…。

それはいつの日か、
君たちのもとに届く。
遠い過去からの言葉として。



#022

にぶく歪んだ太陽が、林をぬけて、
どこまでもこの列車についてくる。

列車が林をぬけると、空いっぱいに雲がへばりついていた。

僕には解る。
目の前にいる2 , 3才のこの女の子が、いずれ大きくなって、
この列車に乗っているようすが。

多分その日も、今日と同じ太陽が、
林をぬけてついてくる。

僕には解る。
その太陽を眺めながら、彼女は何を考えているのか。
そして、ふと、
このにぶく歪んでつきまとう太陽を
遠い昔に見たことがあるような気がして、
いくぶん不思議に思う。

あの子が忘れても、
僕は忘れない。
この今が、あの子の遠い記憶になるということを。

君は確かに、僕と同じこの列車に乗っていたんだよ。

そして僕は思う。
彼女と僕の時代のズレは、
デジャブのようなものなんだと。

何故なら、
このにぶく歪んだ太陽を、
確かに僕は、遠い昔に見たことがある。



#023

「でね、自転周期と公転周期がいっしょだから、
ぼくらには、永遠に月の裏側が見えないんだ。
でもね、実はね、表側と同じ時間だけ裏側も、太陽の光を浴びて燦々と輝いているんだ」



#024

気付いてしまうとその気持ちが、
どうしても、頭から外れない。
はずれないどころか、その気持ちはさらに大きくなる。
そしてその気持ちが、頭を支配する。
理性があるからどうすることもできないのに…。
思えば思うほど、そちらにひきよせられるように歩み出す。
理性が示すまるで反対の方向に。
その先に行けば、全てを失うのに。




#025

学生だったときの気持ちが蘇る。

「忘れていたのにまた顔見せて、二度の苦労をさせる気か」



#026

ちょうど10年前、
田舎から出てきた僕は、
並々ならぬ自己嫌悪を感じました。
と同時に、世の中に対する不信で、目眩がしました。

人の理性や感情が、いかにあてにならないか、
一生懸命生きていても、そこそこやっていても、
とどのつまり、結果はそれに左右されないということ、
つまりは、この世に信じられるものなどないということ、
絶対的な真理という物は、人間の自分勝手な、なぐさめだということ。

あの時僕は、やけっぱちになっていたのかもしれません。

目の前に現れる物は、土であろうが鉄であろうが喰って進もうと思いました。
今までのように、理想上の何かを目指して、流れに逆らうのではなく、
流れの中で、流れの方向にガツガツ進もうと思いました。
そして、その流れの中で出会うもの出会うもの全てを、
愛おしく抱き締めていこうと思いました。

彼岸ではなく、比岸に生きること、
この市民的な日々の生活の中で、少しは増しな生き方をすること。

ただし、決して中庸な幸せを求めるという意識ではなくて。


(注:これは20代後半に書いた文章らしい)



#027

「本当に見るべき物は、この画廊の外にある」



#028

電車の外の景色を見ながら、
いろいろな事が頭に浮かんだ。

昨日の夜のブランコのこと、
ぎこちない、ありがとう、
つっぱった右足、
縮む胸、
あいそ笑い、
ひきつる手。


電車から降りて歩き出して、
重い雲の合間からだるそうに日が射して、
遠く先のアスファルトが光っていた。

昨日の夜の面影なんて、
どこにもない。



#029

街は氾濫しているか、
街には何もないのか、

僕の過去は、
笑いながら歩くこの両手の上で、重さになるか、
この街の空虚さと同じか。



#030

「僕の絵は、美術じゃない」




#031

それでもお前は、手を洗っている。



#032

アルコールによる、脳みその萎縮と健忘の数々。
以前の半分で言葉が足りる毎日。

なるほど、倦怠は、
白さへの憧れを誘う。
または、、置き去りにされたものへの愛着。




#032

夜ニ 白イ、

雪ノ 音ヲ、

僕 ダケガ、

聞イテ イタ。



#033

トーフのような一日。



#034

作られた青空には、偽りの雲が、
音を出しながら回転していて、

捨てられた段ボール箱から吹き出す、
僕のさまざまな感情。

大地はとても広いから、
僕は別に心配はしていない。



#035

新しい花は咲いている。
時代とともに滅びるものがあるように、
新しい花は、もう咲いている。

(これは、ひょっとすると誰かの言葉のメモかもしれない)



#036

所詮、人間の考えることは、
どんなことだって、
脳みその形をしている。



#037

朝焼けは、それが人の目に美しいから、
その色を変えるのでは無い。




#038

全テノ物ハ、最初カラ、ソコニアッタ。
否、本当ハ始メカラ、何モ無カッタ。




#039

あちら側を描くんじゃなくて、
あちら側からこちら側を観るということ。

パタゴニア人の眼を持って。



#040

酒なんて飲みたくないのに、
僕には海があるのに、
いたいたしくて弱々しい人の心、
涙がでるほど、投げ出したいのに。



#041

指の先まで酒がまわって、
電車の私は、時速72km。

いかれた頭に、雨ににじんだ花が咲く、
白くて大きな花が咲く。



#042

閉鎖された炭坑。

新幹線がすれ違う時の、窓ガラスの振動。

朝焼け前の、角の銀行の、デジタル時計が告げる、只今の時刻。

河口近くの、泥油にまみれた黄色い長ぐつ。

土曜の夜の繁華街で聞こえる万歳!、万歳!

ビルの谷間から大気圏をめざす、赤い風船。

となりの家のテレビから聞こえる、一本調子の笑い声。

ころんだおばさんの、紙袋を拾う人。

離陸するジェット機の爆音。

駅前でビラを配る人。

只今のオキシダント濃度の表示。

自転車置き場に迷い込んだ、首輪をしている犬。

終電近く、ゴミ箱に顔をうずめてゲロを吐く人。

幼稚園児をのせた、けばけばしい色のスクールバス。

映画館の開演ブザーに振り向く通行人。

車が通るたびに、こなごなに砕け散る水たまり。

追い抜いていく、向こうの電車にギッシリ詰まったサラリーマンのつかんでいるつり革。

スクランブル交差点が、青に変わる瞬間。

やけに独り言をいう、学校帰りのの小学生。

快速電車通過。



#043

路地裏で空き瓶転がすドブネズミ。
どしゃ降り雨で、全身総毛を逆立てる。

どしゃ降りねずみ、ドブネズミ。
あさって、こそこそ逃げまどう、

どしゃ降りねずみ、ドブネズミ。
引きずるシッポが長すぎる、

どしゃ降りねずみ、ドブネズミ。
シッポを突っ込む水たまり、
写っているのは、お前の姿。



#044

時間は形に、
思い出は色になる。


#045

その気持ちには、名前が無い。
だから、誰もそれを呼ぶこともできないし、
それを、説明することもできない。

ただただ、その気持ちを感じる僕たちは、
その気持ちを貴く思うしか、他にすべが無い。


#046 デッサンの勧め

のっぺらぼうの大人たちよ、
いったいあんたらは、何を見ているのか?
濁ったその目では、もう何も見えなくなってしまったのか?

それとも、自ら目玉を取り出して、
引き出しの奥にしまい込み、
しまったことすら忘れたふりをしてるのか。

のっぺらぼうの大人たちよ、
薄っぺらな保身と安価な享楽を求め、
それでよしと自分を慰める、

のっぺらぼうの大人たちよ、
恥ずかしいと思え、
自分の臆病さを憂え。

その少女の震える小さな心を見ろ!
その少女の瞳に写る月の光りを見ろ!

ああ、僕は喜んで、瞳を向ける。

例えそこに、悲しさや切なさが写しだされたとしても、
それを感じて涙を流す、同じ眼差しを幸せに思う。

のっぺらぼうの大人たちよ、
いったいあんたらは、何を見ているのか?

目の前にある、
いや、自分の目にしっかりと写っているはずの、

のっぺらぼうの大人たちよ、
その物をしっかりと見ろ!


#047

煙草の赤い光りだけが見える夜の部屋で、
僕は言葉を探していて、

ふと、それを書き留めようと、
部屋の灯りを着けたらば、

言葉は恥ずかしそうに、
すーと、部屋の四隅に消えていった。


#048

僕らを笑え。
僕らは君たちを、哀れむ。


#049

揺すぶられる魂であれ。

誰よりも多く、涙を流す魂であれ。

誰よりも多く、幸せを感じる魂であれ。

誰よりも多く、切なさを感じる魂であれ。

誰よりも多く、喜びを感じる魂であれ。

誰よりも多く、美しさを感じる魂であれ。

誰よりも多く、醜さを感じる魂であれ。


誰よりも多く、揺すぶられる魂であれ。。


#050

上京してまもなくの二十歳の頃、
絶対的なものが神だとするならば、
僕にとっての神は“時間”だと、思った。

だから、「神さまのいたずら」は、
「時間のいたずら」。


#051  戦いの唄

本当は、僕は今も、何もわかってはいない。

何が善で、何が悪なのかも、本当は未だにわからない。
でも、時代とともに移ろう倫理観や道徳。

かつて、間違った考えをもつ群衆に、
正しい意見を持った人が八つ裂きにされたことはなかったか?

「一人を殺すと殺人犯で、千人殺せば英雄」という、
あの問題は、解決されたか?

四辻に行って大地に接吻すれば、
神がすべてを受け入れてくれるのか?

でも、その神とはだれか?
今もなお、宗教の違いで諍いをしている、
そこに本当の神や宗教者がいるのか?
まだまだ宗教とは、それぞれの民族の、
体のいい、選民思想ではないのか?

政治はどうだ?
共産主義も、資本主義も、
国がいかにお金を動かすかの話じゃないか?

そこで選ばれた、経済主体の
システムが、
君たちの生きるべき未来の国の基本原理でよいのだろうか?

大人たちは、おかしな話をしてはいないか?

「クラスター爆弾は人道的な武器ではない!」、
なるほどそうですね、でも、ところで、
じゃ、人道的な武器ってどれでしたっけ?

「経済の行き詰まり観を、なにぶん解消しなければ」が、
「武器の生産輸出を緩和することも視野にいれて…」に、どうしてなるのか?

21世紀の現代でも、そんなことを真顔でいう馬鹿がいる世の中。

倫理観をなくしているのは、
まさに、あなた達だ。

「狂った科学者」は、僕らではない、
あなた達の方だ。

あなた達が保身のために作り上げた、
道徳や倫理観や法律。

ああ、人間の魂で戦ったニーチェを廃人にまで追いやった、げすな世界。

今、世の中は、間違った方向に、行こうとしていることに、
何故気付かないのだろう。

僕たちに残された希望があるとするならば、

今一度立ち上がれ、哲学者、
今一度戦え、芸術者、
医学者、科学者…

本当に人間を慈しむ、探求者たち。


#052

“夢”と“欲望”の違いを述べよ。


#053  紙一重の唄

世間的立場や、世間的モラルの中で僕らは普段、
自分の気持ちを押さえ込んで生きている。

でもそこで、僕たちは、そのことを辛く悲しく感じないように、
多くの人が属する側に没することを、
あらゆるものに対して不感症になることを、
知らず知らずのうちに、自ら選んでいやしないか?

なのに僕たちは、
「ちくしょう、こんなはずじゃなかったのに」と悪態をついていないか?
「所詮、俺にはこんな人生がお似合なんだ」と愚痴ってはいないか?

それでいいのか、大人たち?
ならばどうする、若者たち?

同じ、辛さ悲しさを感じるならば、
精一杯自分であることを、
大事にしてみてはいかがか?



#054

闇に紛れて僕らは、普段の存在を消すんだ。
僕たち以外誰もいない、僕たちだけの秘密の場所で、
せめて僕たちが、何からも怯えない自分たちであることを、許し給え。
純粋な本当の僕たちの気持ちを、月よ、見守り給え。


#055

広く社会のモラルに合わせて、
自分を補正することが、
人の智の使いどころだろうか…。


#056

「明るい方が、本当の光だとは限らないんだよ」
やさいい顔で、
夜の魚に言いました…。

さて、これを言ったのは、
神か悪魔か。



#057

清濁あわせ飲むということ。


#058

染める瞳。
秘める想い。
病める魂。
埋める時間。
締める心。
込める言葉。
責める定め。



#059

古いネガフィルムからは、
古い空の色しかでませんでした。
だから僕は、新しい空を探しにいかなければなりません。

古い思い出の中に、
君の姿はありませんでした。
だから僕は、新しい思い出をつくらなければなりません。

そして、僕が探す新しい空の色は、
やがていつか、
君にとっての古い思いでになるでしょう。


#060

その花の名前も知らずに死んでいく、
そんな物だと承知しているから、
その世界に、身を捧げる覚悟がある。


#061 富獄一景

酔っぱらって、振らつく足で、
「さて、月は見えるか」と見上げた夜空には、
巨大なクレーンの鉄骨がそびえていて、
その先端の天近く、
赤いランプしか見えない鈍空。

さて、それを、空しく感じたかというと、
K君、そうじゃないんだ。

機能だけでつくられた人工的な形にも、
圧巻で、美しいと感じた。

考えてみると、美しさをうたって作られたものの、
その姿に、うそうそしさを感じたことはないか。

これでいいじゃないか。
人間も、やるじゃないかと。

バベルの塔を、なんどでも建てろ!

バベルの塔は、
神への冒涜ではなく、
神への憧れだから。



#062

それは、とても変な話なのだけれども、

最近、僕には、自分の臨終の瞬間が、
とても懐かしいように思えてならない。

さてそれは、僕が事故で死ぬのか、病床で息をひきとるのか、
いずれにせよ、その瞬間、
「あぁ、そうだった、こうだったんだ!」と。
思い当たるような気がして、ならないのです。

それ
は僕が、父親の臨終の瞬間を、つぶさに観察していたからなのか、
だからその父親の臨終の記憶が、僕に移ってしまったのか、
はたまた、前世の消えきれない記憶があるからか‥。


そして同時に、昨日のような、明るい青空のやさしい日にも、
何か思い出しそうなものがあるような気がして、
はたしてそれは、
過去の記憶の一場面なのか、
昔見た、どこかの風景のようなものなのか、
はてさて、それもさだかではないのですが。

断じて言いますが、死にたいとは思っていません。

でも、人様に迷惑をかけながらも、やりたいことをやって来たと思うので、
今この瞬間、死ぬことがあっても、
(やりかけていることは、いっぱいあるし、
さらなる迷惑を周りにかけてしまうとも思うのですが)、
ごめんなさい、大丈夫、
充分です。



#063 喪失感

現実を受け入れるのが、辛い。

時計の秒針の音だけが、聞こえる。


空っぽになった毎日。










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#999

最後の言葉。

これらすべての言葉は、本当は自分として、嘘だと思う。
これらすべての言葉は、本当は自分にとって茶番なんだと思う。
まだまだ、表面の部分を、体裁よく繕ってるだけだと思う。

ただ、それを認めてしまうと、そんな人生のまま終わってしまうのがいやなだけで、
自分の人生を少しでも自分で良かったはずだ、すてきだっただろう?と、思えるように、
自分で自分の人生を演出しているだけかもしれない。

もしくは、これを含めて、普通の人間の小ささなんだと思う。


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